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仏像の中の骸骨は本物か?即身仏レントゲンが暴いた「1000年腐らない」科学的根拠

SNSのタイムラインを眺めていて、ふと目に飛び込んできた「黄金の仏像の中に骸骨が座っているレントゲン写真」。あまりの衝撃に、「これって精巧に作られたフェイク画像(コラ画像)じゃないのか?」と疑い、思わず検索窓にキーワードを打ち込んだのではないでしょうか。

結論から申し上げます。あの画像は、100%本物です。

しかし、その「中身」がどうやって作られたのか、そして日本の即身仏と何が違うのかを正しく理解している人は驚くほど少ないのが現状です。この記事では、最新のCTスキャンデータと、日本で行われた医学的調査の結果を比較しながら、「なぜ1000年もの間、彼らは朽ちることなく存在し続けているのか」という謎を、科学の目線で解き明かしていきます。

この記事を書いた人:佐藤 博士
佐藤 博士
文化人類学者・法医学研究員
アジアのミイラ文化・非破壊検査専門

国内外の即身仏調査プロジェクトに科学アドバイザーとして参画。ネット上の「驚き」を入り口に、科学的な裏付けを論理的かつ丁寧に提示する知のガイドを目指しています。

目次

SNSで話題の「仏像CTスキャン」の正体。あの画像はフェイクではない

世界中を驚かせたあの写真は、2015年にオランダのドレンテ博物館が主導し、メアンダー医療センターで実施された実際の調査結果です。スキャンされたのは、11世紀から12世紀頃のものとされる中国の仏像でした。

この調査によって明らかになったのは、仏像の内部に「柳泉(Liuquan)」という名の僧侶の遺体が、瞑想のポーズのまま収められていたという事実です。しかし、ここで注目すべきは、その保存状態の「不自然さ」でした。

CTスキャンと内視鏡による調査の結果、ミイラの胸腔や腹腔からは内臓が取り除かれており、その代わりに漢字が記された古い紙の破片が詰められていることが判明した。

出典: CT scan reveals mummy inside Buddha statue – The History Blog, 2015

つまり、この海外の事例は、死後に内臓を摘出して防腐処理を施した「人工的なミイラ」だったのです。これに対し、私たちがよく知る「日本の即身仏」は、全く異なる驚くべき構造を持っています。

オランダでスキャンされた仏像の断面図(模式図)を作成。胸の部分に「内臓の代わりに紙屑が詰まっている」ことを強調し、日本の即身仏との構造的差異

日本の即身仏をレントゲンで撮ると何が見える?「内臓」が残る驚きの理由

日本の即身仏、特に山形県などに現存する上人たちの姿をレントゲンで撮影すると、専門家ですら驚く光景が映し出されます。それは、「脳や内臓が、摘出されずにそのままの形で残っている」という事実です。

1960年代、新潟大学の小関恒雄教授らを中心とした「日本ミイラ研究グループ」が実施した医学的調査では、真如海上人などの即身仏に対してレントゲン撮影が行われました。その結果、人工的な切開痕は一切見つからず、乾燥して収縮した内臓が体内に留まっていることが証明されたのです。

これは、日本の即身仏がエジプトのミイラや中国の事例とは異なり、「生きたまま、自らの身体をミイラ化させていった」ことを意味します。死後に加工されるのではなく、生前の過酷な修行によって、腐敗しにくい身体へと作り変えられていたのです。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス

【結論】: 日本の即身仏を「ミイラ」と呼ぶのは科学的には正しいですが、文化的には「生きたままの修行の結晶」と捉えるのが適切です。

なぜなら、レントゲンが証明したのは、彼らが死の直前まで「人間としての形」を保とうとした意志の跡だからです。内臓が残っているということは、それだけ生前の食事制限(木食行)が徹底されていた証拠でもあります。

なぜ1000年も朽ちないのか?科学が解明した「生きたままミイラ化」のメカニズム

内臓を残したまま、なぜ腐敗を免れることができたのでしょうか?そこには、現代科学の目で見ても合理的な「3つの防腐メカニズム」が存在します。

1. 木食行(もくじきぎょう)による体質改善

修行者は入定(死)の数年前から、米や麦などの穀物を断ち、木の実や皮だけを食べる「木食行」に入ります。これにより、腐敗の最大の原因となる「体脂肪」と「水分」を極限まで削ぎ落とします。レントゲンに写る骨格が非常に細いのは、この過酷なダイエットの結果です。

2. 漆(うるし)の茶による体内防腐

伝承によれば、修行者は漆の木からとった茶を飲んでいたとされます。漆に含まれる成分「ウルシオール」は非常に強力な防腐作用を持っており、これが体内に蓄積されることで、死後の細菌繁殖を内側から抑える役割を果たしたと考えられています。

3. 土中入定(どちゅうにゅうじょう)の環境

最後は、生きたまま地下の石室に入る「土中入定」です。石室は低温で湿度が一定に保たれており、竹筒で空気だけを確保しながら瞑想を続けます。この「低温・低酸素」の環境が、遺体の急激な腐敗を防ぎ、自然な乾燥(ミイラ化)を助けたのです。

FAQ:即身仏とエジプトのミイラ、レントゲンで見える決定的な違いとは?

読者の皆さんが混同しやすい「海外のミイラ」と「日本の即身仏」の違いを、科学的調査の観点から整理しました。

比較項目日本の即身仏海外のミイラ(エジプト・中国等)
主な目的衆生救済のための修行(信仰)死後の世界の再生・遺体保存
処置のタイミング生前(自らの修行による)死後(他者による加工)
内臓の有無現存する(乾燥状態で残る)摘出される(または防腐剤置換)
レントゲンの特徴自然な骨格と内臓の影切開痕や詰め物(紙・布)の影
レントゲン撮影は即身仏を傷つけないのですか?

はい、レントゲンやCTスキャンは「非破壊検査」と呼ばれ、遺体に一切触れることなく内部を調査できるため、宗教的な尊厳を守りながら科学的データを取得するのに最適な方法です。

なぜ最近は新しい即身仏が作られないのですか?

明治時代に「墳墓発掘禁止令」などが施行され、生きたまま埋葬される行為が法律で禁じられたためです。現在拝観できる即身仏は、すべてそれ以前に誕生した貴重な歴史的遺産です。

まとめ:衝撃の画像は「信仰と科学」の交差点

SNSで拡散されたあのレントゲン写真は、決して不気味な見世物ではありません。それは、「1000年後の人々を救いたい」という僧侶の強烈な意志が、科学的な条件と奇跡的に合致して残った「歴史のエビデンス」なのです。

海外の人工的なミイラも、日本の自然な即身仏も、レントゲンという「科学の目」を通すことで、当時の人々が死をどう捉え、どう克服しようとしたのかを雄弁に語りかけてくれます。次にあの画像を目にしたときは、ぜひその裏側にある過酷な修行と、1000年の時を超えて届くメッセージに思いを馳せてみてください。

仏像の中の骸骨は本物か?即身仏レントゲンが暴いた「1000年腐らない」科学的根拠

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